電車内に泥酔した女の子がいた。突如、中年男性が乗降者のどさくさに紛れて彼女の手を繋ぎ、そして・・・【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第34回
【あの頃、一番言われたくなかった言葉】
皮肉なことに、いつの間にかあのとき一番言われたくなかった言葉――「自分はそうやってきたから、あなたも強く生きないと」と誰かに発言せずとも、心の中で呟いてしまうようになってしまった。この被害者が責め立てられる社会に順応して生き抜いてきてしまったのだなと、どこか物悲しく感じてしまう。「誰も守ってくれない」という事実が、私の瘡蓋をどんどん厚く、そして硬くしてしまったのかもしれない。
私の過去は変わらないにせよ、誰かの未来を変えるために何かできるのならば力を尽くすのが最善であると理解しているし、そうすることが世の中に漂う空気を変化させていく近道となるはずである。ただ、頭で理解しているものの「誰かを救うことで、過去の私への救済になる」と言い聞かせなければ、ふっと暗い部分が浮き上がってしまう瞬間が存在してしまうのだ。
己の脆弱さを呪いたくなる。
そんな愚かさと弱さからこうやって思考を巡らせているのは私自身が一番知っている。知っててもなお、そんな存在を救済するために未来の何かに向けて、過去の戒めを記していきたいと思う。
(第35回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定